月と星の世界

もたざるものであった褪せ人が最初に教えを乞うたのは、街道沿いの地下にいた魔術師セレンだった。ふいに訪ねてきた男が褪せ人であることにも、裸に棍棒ひとつのあやしげな風体であることにもすこしの頓着もみせず、輝石の魔術の手ほどきをしてくれた。彼女にとっては暇つぶしにもならないささいな出来事であったろうが、それまで敵にみつからぬよう息をひそめてやり過ごすか、尻尾を巻いて逃げるしかなかった褪せ人に敢然と相手に立ち向かっていくその気概のうまれた瞬間であった。

 

自らの未熟を知る者だけが、魔術師になる

……さあ、授業を始めようか

 

セレン先生の教えはいつも明瞭で力強かった。輝石は星の琥珀であり、魔術とは星と生命の探求なのだと。黄金の琥珀(ルーン)が生命の残滓を宿しているように、輝石には星の生命の残滓、その力が宿っていると。我らの魔術は、輝石のうちに力を見出し、それを振るう術であると。

 

魔術を手にした褪せ人は見違えるように強くなり敵をバッタバッタとなぎ倒し、歴戦の猛者たちを打ち滅ぼし、いつの間にか己の前に立ち塞がるものはいなくなった……ということはなく、なんならそこらの雑兵にも雄山羊にだって余裕で負けることも多かったしルーンも思い出したくないくらい失った。

それでも狭間の地を歩き回り、うち捨てられた廃墟や遺跡を巡り、各地の崩れかけた城にも乗り込む日々。謎につつまれた黄金樹と呪いとデミゴットたちに覆われたこの地にひどく惹かれたからだった。死してもなお燦然と聳える黄金樹に、交わした約束にしばられる人々。そして誰もが壊れてしまったと口にする。

壊れてたものをもとにただすことのできない狭間の地の人々と出会うたびに、そういうものとは無縁のところから来たであろう褪せ人は思う。それ、必要なの?と。イチからやり直してみては?と。そう思うことはだめなのかなと。生きてる間も死んでしまってもしばられることが安寧につながるのかな。つながってたんだろうな、いままでは。でもそれが壊れた、維持できなかったってことはどこかしらに無理があったんじゃない?と。

そんなときより強い魔術を求めていまはもうみる影もない古い王家の治めた地へと足をのばしたことで、なつかしい顔と再会する。褪せ人に霊呼びの鈴をもたらしたその人だった。雪の魔女と名乗っていた彼女は実はカーリア王家の王女であること、二本指に見出され次の神の後継者という立場でありながら反旗を翻したこと、陰謀の夜の首謀者でその企みは今もなお続いていること。なんなら臣下になるか?と。もちかえって検討などせずふたつ返事でうなずいてしまった。

どうやら褪せ人は静かにみえて内に強さを秘めた人に惹かれるらしい。セレン先生がそうであったように。嵐の城で助太刀してくれたロジェール、手を差し伸べたつもりが今ではすっかり世話になっているローデリカがそうであったように。ラニもまたそういう人であった。ブレイブやリジーとはすでに既知であったので、陰謀云々はさておき臣下として仕えることに異論はなく、というより誰よりも前のめりに依頼に対して突き進んでいった。

ヴァレーにいわれるまでもなく褪せ人は最初からなんとなく二本指そのものがうさんくさかった。だから黄金樹信仰にもコリンにも金仮面卿にも傾倒しなかった。光り輝く大樹よりもリエーニエの地に足を踏み入れて初めて仰ぎ見た月と星のまたたく夜空の美しさに惹かれてしまったのだ。

そうしてラ二を助けるべく動きつづけ、ジェーレンからラダーン、サリア・ケイリッド・永遠の都へと舞台をうつす。セレン先生の言葉どおり、解き放たれた星の運命がふたたびうごきだした時、褪せ人の行く末も定まった。エルデの王になると。今まで巻き込まれながらもどこか他人事であったこの地の命運を自分が握ろうと決意したのは、皮肉なことに恩師であるセレン先生との別れがきっかけだった。迷いのなくなった褪せ人は火山館を滅ぼし同胞である褪せ人を手にかけ、そして黄金樹を焼いた。円卓もなくなるだろう。ラニが置いていくように、褪せ人もまた関わったひとたちを置き去りにして神を倒したのだった。

f:id:nid3dgm:20220804174553j:imagef:id:nid3dgm:20220804174557j:image

すべてが終わったあと褪せ人はただひとりの人の前に跪く。もたざるものであった褪せ人がいつからか愛用したのはカーリア王家由来の盾と騎士の鎧、女王レナラの王笏だった。

こうして狭間の地には夜の律、星の世紀が巡ることとなった。

 

 

長かったー!発売日に初めて5ヶ月。本当に長かったし苦しかったです。嵐の城までが一番時間がかかりました。フロムゲーのお作法がよく分かってなかったし死んでしまうのが嫌で嫌で。最後まで死ぬことには慣れなかったなぁ…

つよめの魔術をおぼえて杖を+10に鍛え、知力を80にあげるまでは一撃で倒せないので本当に苦労しました。うまく立ち回れないので近寄られたらおしまい。とくに洞窟やせまい部屋などは鬼門でした。逆に樹霊やドラゴンや死の鳥なんかの方がまだましにかわせていたかもしれません。

練習もしたし動画を見まくってスキルや武器、アイテムも相当試行錯誤を重ねましたが、それをいかすアクションゲームとしての立ち回りの下手さが最後まで足をひっぱりましたね。本当に私にとってはむずかしいゲームでした。

終盤にはいり敵がよりつよくかたくなってからは、威力とリーチと攻撃速度のバランスのよい大曲剣+赤獅子の炎と古き死の怨霊に助けられました。これなかったら無理だったかもしれないです。とにかく近づかせない、行動をとらせない。セレン先生の弟子とか言いながら、ボス戦でもこのふたつが強くなるようスキルをあげタリスマンを組んでました。ティシーにも助けてもらいました。

こんなに考えてぼろぼろにやられて苦しみながらエンディングにむかって走りつづけたゲームはなかった。クリアできるかどうか最後まで自信はなく、終わった瞬間コントローラーを落としたことにも気づきませんでした。

ラニをよびだし、彼女がマリカに別れを告げ両の手をかかげ、星の世紀のはじまりを告げたときようやく実感がわいてきました。

よびだすとき、褪せ人が跪く演出はとてもうれしかったです。私の王とラニは呼びかけてくれたけれど、気持ちとしてはラニを女王と仰ぎ見る臣下のつもりでやってきたので。イジーとブライブが彼女の両脇をかため、その姿を臣下の礼をとって仰ぐのがうちの褪せ人のスタンスです。

 

暗月の指輪

月の女王ラニが、その伴侶に贈るはずだった

冷たい契りの指輪

ラニが神人であれば、伴侶とは即ち王である

そして指輪には、忠告が刻まれている

何者も、これを持ち出すことなかれ

夜の彼方、その孤独は、私だけのものでよい

 

ラギには贈りたい相手がいたのでしょう。でも二本指が動いたことで結ばれなかった。だから捨てて反旗を翻したのかな?この指輪の立ち位置はこれ以上の情報はないので真偽はわからないままですが、そもそもなぜ二本指とひいてはおおいなる意思と道を違えたのか。なにか意にそまぬことを強要されたのか、黄金樹の律が単純にいやだったのか。いずれにせよこの地を覆いつくすほどの混乱を引き起こしたのはラニです。(私の中ではマリカと利害の一致により協力してコトをおこしたのだと思ってますが) 彼女のそうした部分もひっくるめて運命をともにする決意をしたのは、リエーニエでみあげた月と星のまたたく夜空があまりにもうつくしかったからなのだろうと思います。

 

長い長い旅路でした。解き明かされぬ謎も踏破できなかった土地もありますが、わたしのELDENRINGはようやく終わりました。