突如として現れたノーチロイド。マインド・フレイヤ―が上空から街に暮らす人々を無差別に攫うところからゲームは始まる。弊主人公はその街の警護にあたる騎士という設定でこの物語を始めることにした。
あの街をバルダーズ・ゲートだと思っていたけれど、実際は野蛮な辺境と呼ばれる地域に存在する要塞都市ヤーターなのだとか。兵士の鎧に描かれた紋章から判別できるらしい。何版にもわたり、紡がれてきたその世界、微細な背景が盛り込まれているようだ。
ウッド・ハーフエルフで、献身の誓いをたてた騎士、パラディン。ダークアージ(憑依されたもの)という背景をもつ。オリジンキャラクターという枠にいながら、カスタムキャラクターと同じように自由に作成できる不思議な立ち位置の彼である。その出自以外は。
オリジナルキャラクターの場合一番はじのポッドに閉じ込められていたけれど、騎士はその左隣のポッドから転がり落ちた。抵抗する間もなく触手によってペロンと連れてこられただけのはずがこの有りさま。ポッドの中でなにがあった。いや、ペロンとされる前に返り血を浴びるようなことを……?
そもそも憑依されたものは、剣や呪文では倒せない邪悪な瞬間、人、物が精神に憑りついているらしい。視野をちらつかせ、冒険の先にどこまでもついてくる、とも。
【自分を取り戻せ!汚いことを考えろ!】と最初からジャーナルに記されている。観光気分でこの世界を巡ろうとしているプレイヤーを戒めるかのような圧強めのクエスト。冒険が始まる前から、騎士はわたしには到底うかがい知ることのできない何かを抱えて生きている。
その何かは案外はやい段階からその力を発揮しはじめた。なんやかやあって(本当にいろいろあった。戦闘の洗礼も含めて)ノーチロイドから落っこちたすぐあと……
旅の仲間シャドウハートは綺麗なみためで気絶しているのに騎士はあいかわらず返り血の消えないままだし、しかもおかしなことを考えている。
どういうことなの。騎士だし人を守るためにはあぶない状況に遭遇してもおかしくはないけれどそういうことじゃないよね。騎士に憑りついているなにかがこんなことを思わせているのだろうか。
アスタリオンと遭遇した時の騎士。
ゲイルを引っ張りあげる時の騎士。
シナビとの禅問答のようなやりとりの時も……
この世界の理よりも頭の中の幼生のタイムリミットよりも、何かと叱りつけてくる身振り手振りにいちいちキレのあるレイゼルよりも、この騎士をたびたび惑わせてくる得体のしれない何かの方がよほどおそろしい。ナレーションがまたそれを理解しているようにふるまうのもこわいし。
旅の仲間たち、心強いとかいろいろ言ってくれるけど、騎士を信用していいのだろうか。自分でえらんでおきながらその役割を騎士に押しつけるようで申し訳ないけれど、彼らの願いどおり何もかもうまくいくようなそんな旅とは無縁になる予感しかしない。記憶がないからか、いまは抵抗を見せる騎士が失った記憶を取り戻し、憑依されたものから解放される道は残されているのだろうか。